屍人荘の殺人

鮎川哲也賞受賞作にして2018年の『このミス』1位ということで、図書館で予約した時には百数十人待ちだった。ちなみに、この作品を読んだことで2014年から2018年までの国内1位作品を読んだことになる。普通の人にとってはたいしたことないだろうが、私にとってはとてもすごいことです。以下、感想を書きます。完全にネタバレです。
嵐や吹雪等の自然災害に頼らずにクローズドサークルを作り出したという点は、評価に値すると思う。特に、ウイルスによるテロというのは近年の世界情勢を反映していて21世紀型クローズドサークルと言っていいんじゃないだろうか。奇しくもここ数年、漫画の方ではゾンビものが流行っている。時代なのか世相なのか。なによりも、思いついても普通は本格ミステリーにゾンビなんて出さない。それを実行に移しただけで素直にすごいと思う。
読んでいて面白かったのは確かだ。もちろんいくつか難癖をつけたいところもある。それらを一つづつ書いても仕方がなのだがどうしても許せないというか認められない点が一つだけある。非常に個人的な信条が犯人指摘の重要な手がかりとなっている。これは個人的な意見だが、私は認めたくない。フェア・アンフェアの話ではなく恐らく美学の問題だと思う。主義、信条と言ってもいいかもしれない。とにかく、この点が気になった。
あと、読んでいてずっと気になっていたのがキャラの造形というか、使い古された言葉でいうと、人間が書けていななのかも知れない。新本格を読み始めた頃、所謂、人間が書けていないという批判があったというのは知っていたが、じゃあ具体的にはどのあたりを指して人間が書けていないというのか、というのが疑問だった。小説として面白いのだからいいじゃないかと思っていた。しかし今回『屍人荘の殺人』を読んで、例えば服装を説明し外見を説明しただけではたしてその登場人物を書いたということになるのだろうか? という疑問が浮かんできた。この辺りについてはもう一度しっかりと考えなければいけない問題なんじゃないかなと思うんだが。
まぁ、たんに私がおっさんになっただけなんだろうけど。

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人