チーム・バチスタの栄光

第四回「このミステリーがすごい大賞」受賞作にしてこのミス大賞史上、最高傑作だそうな。そのほかこの作品がいかにすごいかは宝島社文庫版の解説を読んで下さい。以下は個人的な感想です。ネタバレありです。
さて、この作品なんだが面白かったしさくさく読めた。いい作品なんだろう。でも、人が褒めれば褒めるほど貶したくなる。ということで欠点から挙げてみよう。
まず、一番気になったのは白鳥という人物。作中でロジカル・モンスターと呼ばれていた。でも全然ロジカルじゃない。言い換えよう。ロジカル・モンスターなんて渾名で呼ばれるにはまだまだロジックが甘い。
作品のプロットを考える上で−僕個人の話だが−まず謎を考える。そししていかにしてその謎を解決するかということを考える。それは同時に犯人を考えることでもある。このとき解決への道筋を考える、つまりロジックを考えるわけだが途中で幾筋かのロジックが思いつく。その中には“これ”というのもあるんだけど実はこれが落とし穴。作者は既に犯人も動機も何もかも知っているわけだ。知っている状況で考えるのだから作者がいくら“これ”と思ってもロジックが甘いなんてことがある。この作品の甘さはそういうものの気がする。ただこれは物語全体の一部分でありこの作品でいうと細部にでしかない。もし白鳥の渾名がロジカル・モンスターでなければ見逃しただろう。
またこのミス大賞の選者はキャラクターを絶賛していたが果たしてどうだろうか。目標は打っては4割60本塁打200打点、投げては30勝0敗防御率0.00という少年野球選手の将来の夢のような安直さを感じてしまった。まぁ、このあたりはたぶんわざとだろうと思う。
あと一番気になったのは会話の間の地の文。たとえが多用されているのが気になった。
小説というのは文字だけですべてを表現し説明する。この場合、たとえというのは有効だ。作者がイメージしているのとまったく同じ者をたとえにより読者もイメージする。しかしこの作品のたとえはなんだかよくわからない、あるいはイメージできないといものが多かった。
この作品は医療現場とバチスタ手術という一般人には接する機会の少ないものを舞台にしている。だからこそいろいろな問題はあるものの最終的には面白かったといえるんじゃないだろうか。そういったものを題材にして書くことができるというのも才能のひとつだと思う。だからこの作品はこれでいいんだろう。
きっとあれだ。医者という地位も名誉もある職に就きつつ作家として、しかも大絶賛の中、デビューした海堂氏に対する嫉妬だろうな、きっと。

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)