背の眼

今、もっとも注目している作家の一人、道尾秀介氏のデビュー作。注目しておきながら読むのは初めて。感想だが一言で言うなら面白かった! かな。
この作品、ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作なんだがただただホラーなわけではない。ホラー的要素を持っているのは確かだがそれはあくまでも作品を構成する上での一要素。建物で言えば柱の一本、レンガの一つ。そういったホラー的要素を持つ資材を使って家を建てたができあがったのは紛うことなく本格ミステリーだった、というような作品。もちろん元がホラーだから“よくわからない”というかたちで片付けられているものもある。しかしそんなことは問題ではない。多くの不可解な謎が作中で提示されそのほとんどに解答が提示される。もちろんちゃんと伏線もあり説明も論理的。本格ファンが納得できる作品だと思う。
そうそう。面白かったのが文庫版の解説。大森望さんなんだが『背の眼』に対する審査員の評価を引用していた。審査員は綾辻行人氏、桐野夏生氏、唯川恵氏の三名で綾辻さん以外のお二人は「長すぎる」というようなことをコメントされていた。実際に長かったらしい。でも、謎を解くにはそれ相応の枚数が必要で、逆に少ないと中途半端な伏線と中途半端な解決になってしまう。その辺りはさすが綾辻さんというべきかしっかり評価されていたと思う。
思うに、ミステリーのコアなファンというのは謎の提示としっかりとした解決があれば少々、物語が長くても−もちろん無駄にだらだら長いというのは除く−苦にならないのだろう。この顕著な例が京極作品である。京極堂の本筋とは関係ないと思われる蘊蓄も後々、物語の核心と繋がってくるから意味があるわけで、もし無駄にしゃべっているだけなら今の半分以下の厚さにしてもいいと思う。で、何が言いたいのかというと桐野、唯川両氏の作品は読んだことがないので知らないががちがちの本格の人ではないだろう。だからこの作品の長さが許せなかったのかもしれない、ということを考えたのだ。文庫化だけど今年の奥付作品ではNo.1かも。

背の眼〈下〉 (幻冬舎文庫)

背の眼〈下〉 (幻冬舎文庫)