キリオン・スレイの生活と推理

恐らく本を読む時間はないだろう。でも本がないというのも不安だ。だからとりあえず何か一冊持っておこう。読めなかったとしても別にいいや、ということで出張に持っていって読み始めたのが都筑道夫著『キリオン・スレイの生活と推理』だ。そういえば『退職刑事』も最初は出張中に読んでいたな。
さて本書は不可解で魅力的な謎をあつかった作品ばかりである。例えば指で人を刺し殺したという犯人や完璧なアリバイをわざと否定する人、朝飯を食べる幽霊など。いずれも非常に興味をそそられるものばかりだ。ただ不可解な謎に対して解決編が物足りない。論理的に解決されてはいる。このあたりはさすが都筑道夫と思える。しかしあまりにも論理的すぎて、どう表現すればもっとも的確だろうか、こう、着地が無難すぎる気がする。このあたりがロジック重視の最大の問題点なのかもしれない。この辺、個人的な覚え書きなのであまり気にしないでください。
さて、それよりもおもしろかったのが巻末の中島河太郎氏による解説に書かれていた次の箇所だ。
「本格推理小説の主人公は(中略)アマチャーの方が望ましい。
 ところが、論理癖があって、好奇心が旺盛で、やたらに暇があって、という人物をうかつに設定すると、日本人の貧乏性ときまじめさの反映だろうけれども、現実感がうしなわれる恐れがある」(『キリオン・スレイの生活と推理』pp.241-242.角川文庫)
という理由で本作の主人公をアメリカ人のキリオン・スレイにしたそうだが、現代でそんな必要はない。このあたり時代が反映されているな。
結論。都筑氏の定義に基づけば現代本格の探偵役にもっともふさわしいのは論理癖があり好奇心旺盛なフリーターかニートということになる。