『さらば長き眠り』

原籙氏の三作目の長編にして沢崎シリーズ第一期完結作でもある。前二作に比べると量的にも倍ぐらいあるんじゃないだろうか。以下、ネタバレはないと思いますがスレスレのところをいくと思うので興味ある方だけどうぞ。
いつも思うのだが物語の最初の一行目から既に事件は起こっている、というのはすごい。これはエンターテイメント小説として非常に重要なことだと思う。クローズドサークルテーマの作品を例に考えてみればよくわかる。物語の冒頭でなにがしかの理由から探偵役が後に事件が起こる現場へと赴く。現場に到着後、そこにいる人同士の挨拶や自己紹介がおこなわれその後、特にこれといったこともなく夜になり就寝となる。そして次の日、起きると既に事件が起こっている・・・。あくまでも僕の経験だが、ここまでに少なくとも数十ページから100ページぐらいは必要なんじゃないだろうか。となるとこの長い導入部分で読者が飽きてしまう可能性がある。しかし原氏の作品にはその心配はない。物語の始まりと同時に事件が動き出し、読者は引きつけられる。
さて今作は11年前の自殺の真相を調べるという話だ。作中で沢崎は自殺の真相なんて結局、本人にしかわからない、という内容のことを言う。その通りだと思う。ということは逆に言えばこの作品はどこまでいっても合理的な結末にたどりつかないということではないだろうか。もっともハードボイルド小説なので合理的な結末じゃなくてもいいといえばいい。
さて、その結末だが・・・。
それはさておき、今作で渡辺が死んだ。しかしこのことは短編集『天使達の探偵』で既に書かれていた。このことが今後、どう関わってくるのか。数年前ならどうなるんだろう、と気にしなくてはならなかっただろうが、今はその必要はない。沢崎シリーズ第二期の始まりである『愚か者死すべし』が2004年に発売されている。問題は文庫化を待つかどうか。
余談だが昨夜、読了後、さて次は何を読むかなと考えた。前から読みたいと思っていた作品を読むか以前に買って忘れている作品を読むか途中まで読んでやめた作品を読み直すか。そこでふと思ったのだが次に何を読もうかなと色々と考えている、この瞬間が本読みとして一番、幸せな時間なのかもしれない。さて本当に何を読むかな〜。

さらば長き眠り (ハヤカワ文庫JA)

さらば長き眠り (ハヤカワ文庫JA)