聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた

前作のように、物語冒頭から事件が始まらないというところは、ちょっと残念だった。出来るだけはやく、時間が始まるという作品が個人的に好きだからである。グダグダ物語が続いてようやく100何ページ目に事件が! なんて作品はあまり好きではない。最も、時間のために必要な前置きであれば少々はかまわないと思う。
最初の推理パートから、仮説とその否定が繰り返され、中盤で思わぬ独白があり、その後、一体どうなるのやら、探偵はいつ出てくるのか? 等々と期待を持ちつつ読み進めると、さらなる推理合戦が展開される。前作『その可能性はすでに考えた』の感想で
「探偵が否定することを前提として探偵以外の推理が構築されている点が、ちょっとひっかかる。探偵以外は可能性さえ提示できればいいというのが、出発点になっているからかもしれないが、この設定自体がある種の逃げと言えるのではないだろうか。」
と書いたが、この点に関しても、改善というか進化していて、それが本命の推理でもいいかもというものもあった。
私が好きな作家は法月綸太郎氏なのだが、氏の作品に登場する探偵法月綸太郎は、何故か一度、推理を間違える。この原型は氏のデビュー作『密閉教室』に見られる。
同様にあらゆる可能性を考えているはずの上苙だが、必ず真相は見誤っている。必ず間違えるという欠点が有るからこそ、青髪にオッドアイの男前という完璧な容姿であっても、どこか身近に思えるのかもしれない。
推理力は高いが真相にはなかなかたどり着けない。この探偵で、クローズドサークルテーマの作品を読んでみたい気がするのは、私だけだろうか。

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)